未来に向かって、心ときめく旅へ
今日は、どこへ行こう。
まだ見たことのない街、心惹かれる美しい建築、ふと足を止めたくなる路地裏、そして旅先で偶然見つける小さなカフェ。
行き先を決めず、新幹線に飛び乗ってみるのもいい。いつかは海を越えて、憧れていた異国の街を歩いてみたい。
キャリーバッグにお気に入りの服と少しの勇気を詰め込んで、いつもの扉を開ければ、そこからもう旅は始まっています。
これは現実の旅かもしれないし、私の心の中に広がる空想の旅かもしれません。
でも、どちらでもいいのです。
美しいものに出会い、心をときめかせ、昨日まで知らなかった私に出会う。
さあ、今日はどこへ行こう。

久しぶりに、何の予定もない休日。
時計を気にしなくていい朝は、それだけで少し心が弾みます。
コーヒーを片手に旅や街歩きの雑誌をめくりながら、
「海もいいな、カフェも素敵。ショッピングもしたい……」
そんな空想を楽しんでいるうちに、今日の行き先がふっと決まりました。
さあ、そうと決まればお出かけの準備。
大きな鏡の前でウィッグ、ブラウスを整え、スカート、ストッキング、パンプスまでチェックして、今日もお洒落するーーー
うん、今日の私もいい感じ。
さて、小さな休日の旅へ出かけましょう。


さあ、出かけるぞ!

鏡の前で最後のチェックを済ませ、バッグを手に玄関へ。
エレベーターを降りると、いつもの管理人さんが「今日はお出かけ?」と笑顔でひと言。
「はい、ちょっと遊びに行ってきます!」
何も予定のなかった休日が、少しずつ特別な一日に変わっていく。
さあ、今日はどんな素敵な出会いが待っているのでしょう。


おばんちゃんは、やさしく見送ってくれました
管理人さんが管理人室から出てきて、キャリーバッグを持った正美さんを見つけます。
管理人さん
「あら、正美さん。こんにちは。……あれ?今日は大きな荷物持って。どこ行くの?」
正美さん
「こんにちは。ふふっ、分かります? 今日はちょっと遠くまで行ってこようかなと思って。」
管理人さんはキャリーバッグを見て、少し驚いた顔。
管理人さん
「遠くって、旅行? いいわねぇ。いつもはあのバッグだけやのに、今日は本格的やん。」
正美さん
「そうなんですよ。新神戸まで行って、新幹線に乗ろうかなって。」
管理人さん
「ええっ、新幹線! どこまで?」
正美さん
「それがね、まだ決めてないんです。」
管理人さん
「決めてないの!?」
正美さん、ちょっと嬉しそうに笑って、
正美さん
「駅に行ってから決めようかなと思って。京都でもいいし、広島でもいいし……。たまには、そういうのも面白いかなって。」
管理人さん
「正美さんらしいわぁ。でもええなぁ、それ。私なんか旅行するとなったら、何日も前から『あれ持った、これ持った』って大騒ぎやわ。」
正美さん
「私も結構入れてますよ。ウィッグのブラシでしょう、お化粧道具でしょう、着替えでしょう……。普通の旅行より荷物が多くなってしまって。」
管理人さんが正美さんの髪を見ながら、
管理人さん
「でも今日も髪きれいやねぇ。これ、この前の?」
正美さん
「そうそう。ブラッシングしてきたんです。新幹線に乗ると思ったら、朝からちょっと気合い入っちゃって。」
管理人さん
「分かる分かる。旅行の日って、出かける前から楽しいもんなぁ。」
そして今度は上から下まで正美さんの服装を眺めて、
管理人さん
「今日の服もええやん。白いブラウスに、そのスカート。ベルトもよう合ってるわ。」
正美さん
「ありがとうございます。せっかく旅行するんだったら、ちょっとお洒落して行こうと思って。」
管理人さん
「でもその靴で歩けるの?」
正美さん、足元のパンプスを見て笑います。
正美さん
「そこなんですよ(笑)。たくさん歩くことになったら、途中で後悔するかもしれません。」
管理人さん
「ほらぁ! 旅行やったら歩くでぇ。」
正美さん
「でも、やっぱりこれで行きたいんですよね。」
管理人さん
「はいはい(笑)。正美さんはそこ譲らへんもんな。」
二人で笑います。
そして管理人さんが、
管理人さん
「でも一人で行くの?」
正美さん
「はい。今日は一人旅です。」
管理人さん
「寂しくない?」
正美さん
「どうでしょうね。でも、新幹線の窓から景色を見たり、知らない街を歩いたり、気になった建物を見たり……。疲れたらカフェに入って。そういう一人の時間も好きなんです。」
管理人さん
「ああ、正美さん建築の仕事してるから、普通の人と見るところが違うんやろね。」
正美さん
「そうかもしれません。古い建物なんか見つけると、つい立ち止まってしまうんですよ。『この壁どうなってるんやろ』とか、『この建物何年前やろ』とか(笑)。」
管理人さん
「旅行行ってまで仕事してるやん(笑)。」
正美さん
「ほんとですね(笑)。」
少し話したあと、正美さんが時計を見ます。
正美さん
「あっ、そろそろ行かないと。話してたら、また長くなっちゃいましたね。」
管理人さん
「ほんまや(笑)。私が引き止めてもうた。新幹線乗り遅れたら大変や。」
正美さんがキャリーバッグのハンドルを握って、
正美さん
「じゃあ、行ってきます。」
管理人さん
「はい、行ってらっしゃい。気ぃつけてね。楽しんできて。」
そして正美さんがエントランスの自動ドアへ向かいかけたところで――
管理人さん
「あ、正美さん!」
正美さんが振り返ります。
正美さん
「はい?」
管理人さん
「帰ってきたら、どこ行ったか教えてや。」
正美さん
「もちろん。写真いっぱい撮ってきます。」
管理人さん
「楽しみにしてるわ。」
正美さん
「じゃあ、本当に行ってきます!」
キャリーバッグの小さな車輪の音を響かせながら、正美さんはエントランスを出ていく――。

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